ゴーカートフィーリング 1
ミニの商標をつけた車はハッチバック型が中心ですが、そのオープンモデルのほか、跳ね上げ式ハッチのかわりに観音開きの扉をつけたクラブマンというやや大きめのワゴン、SUVタイプのカントリーマンなどのヴァリエーションがあります。ハッチバックは、1959年のもともとのミニのイメージをなんとなく取り入れたとして、BMWによる買収から3年後の2001年に発売され、その後、2度にわたる少々の手直しを経て3代目のモデルが2014年以降販売されています。2ドアハッチバックを独英と日本では3ドアと、北米では2ドアと呼称するようです。2015年に追加されたホイールベース(前輪と後輪の間隔)と全長を少々伸ばした4ドアハッチバックは、独英と日本では5ドアと、北米では4ドアと呼称するようです。エンジンは3気筒1200cc、3気筒1500cc、4気筒2000ccのガソリン・エンジンもありますが、ヨーロッパ(といっても英独がほとんどのようです)では3気筒1500cc、4気筒2000ccのディーゼル・エンジンが中心のようで、後者は一部は2015年から、本格的には2016年5月から日本でも販売されています。
さて、このミニ・ハッチバックですが、販売店が用意する試乗車や、同じことですが実際に販売されている商品は、まっすぐ走らないのです。もちろん全部調べたわけではありませんが(なお、BMWは一切調べていないようです)、4台運転したうち3台がほぼ同様の状態でした。そのうちの1台について、ホイール・アライメント値を測定したのがつぎのデータです。

データシートの主要部分だけを示したものです。Fは前輪、Rは後輪で、それぞれについて、トー(上から見た車両中心軸に対するタイヤの角度)、キャンバ(後ろから見た垂直線に対するタイヤの角度)、キャスタ(横から見た操舵輪この場合は前輪の操舵軸の角度)の「基準範囲」と実測値が示されていますが、青字は「基準範囲」内におさまっているもの、赤字はそこから逸脱しているものです。なお、キャスタについては「基準範囲」は空欄となっていますから、それへの合致・逸脱状況は色分けでは示されていません。
このデータだけから、以下のことが推定されます。
(1)右前輪のトーが大きく逸脱しています。左に転舵すると右前輪に相対的に大きな荷重がかかりますが(あらゆる場合に。ブレーキをかければなお一層)、この過大なトーにより、車両は左へと意図した以上に旋回してゆくことになります。
(2)後輪のキャンバは、「基準範囲」では内側への傾斜、いわゆるネガティヴ・キャンバとなっていますが、この車両では極度に不足してほとんど直立に近い状態になっています。車体はキャンバの傾斜方向へと押されることになるのですが(地面に横倒しになった長大な円錐の基底部だけがタイヤとして現れている、と考えるとわかりやすいようです。ネガティヴ・キャンバであれば、左後輪は右へ、右後輪は左へと車体を押す。全体を押すというより、車体後部を)、この働きが欠如した状態で転舵すると後輪は旋回円外側へと振られ、復元しにくくなります。いわゆる「尻が振られる」状態です。
(3)右後輪のトーはプラスの場合、車体後部を内側=左へと押すことになりますが、ここでは極度に不足していて、ほとんどゼロです。車体後部を左に押す力が相対的に小さいわけですから、結局のところ車体後部が右側に流れやすくなります。ということは車両全体は左へと流れやすくなります。
スタッドレスタイヤが普及する以前(大昔の話です)は雪道や凍結路で、前輪にだけチェーンを掛け後輪は夏タイヤのまま走行したものですが、後輪が旋回円外側へ膨らみやすく、フットブレーキ(4輪に効きますが、チェーンがないうえ、駆動軸でもない後輪は簡単にロックします)はもちろんエンジンブレーキ(前輪だけ制動)が効いただけで、車体後部が大きく外側へ逸脱したものです(FF=前輪駆動の場合。FFは雪道に強いというのは嘘です。駆動輪である前輪の荷重が大きいので、荷重の小さい後輪駆動=FR車の後輪と異なり空転しにくいので、なんとなく有利な氣がするだけです。駆動力がかかっていて完全にロックすることはありえない後輪駆動=FR車の後輪とは異なり、荷重が軽いうえ駆動力がかかっていない前輪駆動=FF車の後輪は容易にロックし、破滅的結果を招きやすいのです)。後輪のネガティヴ・キャンバ不足の場合はそれに似たような状況が起きることになります。
それに右後輪のトー不足がくわわり、車体後部の右への動き、すなわち車両全体の左への偏倚が起きやすくなります。
(3)キャスタの「基準範囲」が示されていませんが、別の資料によると4度20分、すなわち4.3度のようです。だいぶ不足していて、直進性の欠如と、同じことですが転舵後の復元力の不足、いわゆるステアリングの戻りの悪さを引き起こすことになります。上記(1)の傾向と併せ考えると、左への少しの転舵で、車両は左へと流れるだけでなく、ステアリングは左に偏倚したままで復元しないので、その状態がずっと続くということになります。
(4)キングピン角度は測定されていません。数値次第では直進性の悪化、もどりの悪さを引き起こすことになりますが、一切不明です。
以上は、測定データから当然推定できることですが、以下の実際の走行における現象は、まさにこのとおりのことが起きているのです。
直進性が極度に悪い。少々の外乱で左右に針路が変化する。とくに左への偏倚が顕著。
ステアリングの復元力が弱い。左については中立の数度手前で復元が停止する。つねにステアリングホイールで修正舵をあてていなければならず、30分もしないうちにひどい肩こりになる。結局、つっかえ棒のように肘を突っ張ってステアリングホイールを固定し、支えていなければならない。
転舵の際に、後輪が旋回外側へ膨らむ。とくに、高速道路でのレーンチェンジで尻が振られる。
ミニの車検証では車名は「BMW」です。ミニという独立した自動車製造業者は存在しません。ミニはBMWが製造販売しているものです。
これはミニだけの事柄ではありません。BMWは長くFRの車両だけを製造販売してきましたが、ミニというブランドでFFの車両を製造販売する経験を積んだ後、現在ではBMWブランドの車両のうち、比較的小型の(したがって安価な)ものについて、あらたにFFのモデルを追加しただけでなく、さらには今後既存のFRの小型モデルの大部分をFFに転換する方向をとっているようです。ミニのエンジンはBMWの小型車両のエンジンと同じものですが、車体の骨格部分や、サスペンション、ステアリング機構なども同様にミニとBMWの小型車は共通のものに順次切り替えられつつあるのです。
高級車を製造販売するBMWに対する信頼(信仰)について、再検討をせまる事実といえます。
この件に関するBMWの日本法人の対応状況については、追ってみてゆくことにします。
2016.7.25.