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BMW商法 1

 このウェブサイトを見た友人から、メールをいただきました。前回、車を買い替えるときには相談に乗っていただいたのですが、今回は相談しないで無断で?買ってしまったのです。

 メールはつぎのとおりです。

 

「庶民にとって新しい車を迎えるということは、人生の晴れがましい出来事の1つだと思うのですが、http://yhbmwmini.wixsite.com/buy-a-carを見ると、本当に残念です。

 姿形といい,ETC内蔵バックミラーとかのセンスのいい内装・装備といい、ミニは良い車という評判だったのですが。

 ウチの車は走行距離10万kmほどなので買い換えはもうしばらく先になりそうですが、ミニは止めときます。」

 「走行距離10万Kmなので買い換えはもうしばらく先」という部分についてはすこし説明が必要かもしれません。30年あるいは40年前ですと、国産車の場合、5万kmも乗るとかなり劣化したものです。かつては最初の車検が2年目だったので、4年とか6年での買い替えはごく普通でした。近年はだいぶ耐久性も向上し、7年とか9年くらいは乗り続けるのが一般的になりましたが、一般的には年間走行距離は1万km程度でしょうから、いまでも多くの場合自家用車は10万kmも走行しないうちに買い替えられるようです。

 昔、「カーグラフィック」には、「10年間10万キロ物語」という連載がありました。1台の車を長く乗り続けた読者を訪ね、多少の苦労話をまじえて、その車の良さや、ユーザーがその車を使ってどう暮らしてきたかを2ページで紹介する記事です。小林彰太郎が存命だった頃です。小林彰太郎亡き後、すっかり創刊の志を失った「カーブラフィック」は見る機会がまったくなくなったので、現在この連載があるのかどうか知りませんが、かつては10万kmが自家用乗用車にとって一区切りだったことがわかります。そういう基準からすると、「走行距離10万Kmなので買い換えはもうしばらく先」という部分は不思議な感じがするかもしれません。しかし、この方がずっと乗り継いできたフォルクスワーゲンやアウディですと、たしかに5万kmや10万kmは、まだまだ十分に乗り続けることができる距離なのです。

 かく言う当方も、これまでずいぶんいろいろな車を乗り継いできましたが(もちろん「高級車」ではありません)、なかでもフォルクスワーゲンの場合の耐久性はかなり高かったといえます。(ただし、近年でいうとトルクコンバーターを用いない新型トランスミッションで少々トラブルがあったようですが、他社と違って製造企業による保証修理がかなり手厚くおこなわれたようです。)

 かくして、「走行距離10万Kmなので買い換えはもうしばらく先」という言葉からも、この友人が車についてかなり堅実な目をもち、うわべに惑わされずに購入して使用していらっしゃることが、よくわかると思います。

 

 本題に入ります。

 たしかな目をもっていらっしゃるこの方にして、ミニについてはずいぶん誤解をされていたようです。「姿形といい,ETC内蔵バックミラーとかのセンスのいい内装・装備といい、ミニは良い車という評判だったのです」というのです。

 「姿形」はともかく、「ETC内蔵バックミラーとかのセンスのいい内装・装備」とありますが、当該車両を購入した当方も同様ですが、ミニといって思い浮かべる外観や内装・装備のほとんどすべてがじつは標準装備ではなく、高額のオプションだったのです。「ETC内蔵バックミラー」は、バックミラー(ルームミラー)にETCカードの収納部と送受信アンテナなどが組み込まれているものなのですが、標準装備ではなく6万9千円のオプションです。ETC受信機だけでしたら1万5千円程度で取り付け可能ですから、かなり高額な追加支出になります。

 

 なにより、ミニのオプションは膨大かつ高価です。株式会社ビー・エム・ダブリューが用意して「自動車評論家」たちに無償で貸し出している「広報車」は、それこそオプション全部のせの状態です。次は、インターネット上の「webCG」の例です。当該車両であるミニクーパー5ドアハッチバックのディーゼルエンジン仕様の価格は318万円ですが、それに174万円のオプションがついているのです。

 常軌を逸しているというほかありません。これが業界内において悪名を馳せている「BMW商法」の一環なのです。ミニに492万円支出する人は現実にはほとんどいないでしょうが(たとえばBMWやメルセデスベンツの最廉価車を買うでしょう)、問題なのはこうした「自動車評論家」の記事は、それら本体価格の6割以上のオプション付きの車について、ごく短時間試乗しただけで書かれていることです。

 「センスのいい内装・装備」というファンタジーがこうして形成されるのです。しかも、そうした部分こそがミニの本質であるかのように宣伝されるのであり、ミニを購入すればそのようなすばらしい「センスのいい内装・装備」が手に入ると、誰もが思うことになるのです。

 「素」の状態の車は用意されていませんし、カタログを瞥見した程度では何が標準仕様で、何がオプションなのかの区別すらつきません。カタログないしウェブサイトをかなり時間をかけて分析しても、情報が不足していてそれらオプションの全貌を掴むことはできません。わかるのはせいぜい6割、どんなに慎重かつ克明に追求しても8割程度でしょう。ましてあてがわれたものに触れさせていただくだけの「自動車評論家」自身がよくわかっていないのですから、それら太鼓持ちたちによって醸成されたとんでもない誤解が、まるでミニの本態であるかのように印象付けられて拡散定着しまうのです。

 雑誌やインターネット上にあふれる提灯記事や、さらにはショールームに飾られた展示車、それどころか15分間だけ試乗させていただく試乗車は、318万円だと思っているのに、何十万円のオプションがついた、ひどい場合には492万3千円にもなる別物なのです。スッピン(素顔でも別嬪)だと思ったら、厚化粧を施した化け物だったということなのです。

 内外装の厚化粧というていどならまだよいのです。問題はその先です。

 外板色や革シート、内装のメッキ加飾などのみてくれだけならともかく、カタログやショールームや広報車、試乗車は基本性能に関する部分で「素」の状態とはほど遠い別物になっているのです。新型のこのグレードのめぼしい特長とされるものが、ことごとくオプションなのです。17万8千円のナビゲーションシステムにはじまり、12万3千円の半自動駐車機能、あわせて10万6千円の変速タイミングやダンパー設定、パワステのアシスト量のモード切り替えなどは、すべてオプションです。絶対に実際の使用記が書かれることのないヘッドライト(10万8千円)や自動ブレーキ(17万2千円)なども同様です。

 本質的かつ最大の問題は、走行性能において決定的な要因となる、ホイールとタイヤが標準装備とはかけ離れたものになっていることです。当該車両の場合、標準装備では、トレッド175cm、扁平率65%、15インチのホイールですが、上の例では、じつにトレッド205cm、扁平率45%、18インチのホイールです。どちらが良いかどうかはさておきましょう。試してみるほかないのですが、ほとんどその機会にはめぐりあうことはないでしょう。ひとりの「自動車評論家」にこの2種が貸与されることも、ひとつのショールームに、この2種が置かれることも絶対にありません。

 「自動車評論家」も購入者も、何がなんだか分からない「試乗車」に幻惑されてしまい、ホイールアライメントの狂った、直進安定性の完全に欠如した車に、いきなりフルスロットルを与えてみたり、急ハンドルを切ってみたりした挙句、パワーがあるとかないとか、さらには「ゴーカートフィーリングは健在である」などの妄言を吐いたりする羽目におちいるのです。

2016 BMWが製造するMINIの品質

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